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2014年2 月17日 (月)

飛行機の機内上映では絶対見られない! ハイジャック映画の世界へようこそ(後編) このエントリーをはてなブックマークに追加

ハイジャックムービーの歴史。前編はこちら。


■ビン・ラディンも観てた? 9・11以前のハイジャック映画

 2011.9.11のワールドトレードセンターへの2機の飛行機の衝突直後、この出来事をハリウッド映画のスペクタクルに例えてコメントをする知識人が後を絶たなかった。テロリストは、ハリウッドを模倣した。または、ハリウッドの想像力を現実が超えたといった具合。ではそのハリウッド映画とは、具体的にどの映画を指すのか。90年代後半のハリウッドは、航空機を使った自爆テロという題材の映画を、出来の良し悪しはともかくいろいろと生み出している。


エグゼクティブ・デシジョン』(1996年米)は、アラブのテロリスト集団が用意周到にカメラのパーツとして樹脂製の拳銃SIGを持ち込み、ワシントン行きのボーイング747飛行機をハイジャックするという内容の映画だった。彼らテロリストが要求するのは、投獄されている自分たちの組織のリーダーの釈放である。

そう、ここまではハイジャック映画のテンプレートである。だが、カート・ラッセルが演じる米陸軍情報部顧問のグラント博士は、このテロリストの要求がダミーである可能性を指摘する。彼が心配するのは、先だって盗まれた「神経ガス」の行方だった。これが飛行機内に持ち込まれて、さらに首都ワシントンに飛行機ごと墜落させるような自爆テロが仕掛けられたら大変。そんな最悪の時代が怒ることを博士は案じていた。

そんな心配性の顧問の想定の下、米国防総省は、スティーブン・セガール演じるトラヴィス大佐率いる突入部隊を乗せた輸送機(という設定のF-117)を、ハイジャックされたボーイング747の腹部にドッキングさせ、機内への侵入を試みる作戦を決行する。だがドッキング時のトラブルにより、トラヴィス大佐は輸送機の爆発で死亡してしまう。その一方、訓練を受けた軍人ではないグラント博士が、トラヴィス大佐の部下、民間人の技術者ケイヒルとともにハイジャックされたジャンボ機の側に残されてしまう。

案の定、テロリストたちの目的は、博士の予想通り神経ガスを搭載してのワシントンへの突入だった(この辺は、いかにもなご都合主義である)。彼らは、客席の中に紛れている起爆剤を持つ男と、テロリストのリーダーを割り出し、起爆装置の停止作業とともに機内突入のタイミングを計る。

この映画の落ちはこういうものだった。突入したグラント博士たちの目論見通り、テロリストたちの殲滅には成功した。神経ガスの起爆装置も無事ストップさせる。自爆テロという敵の計略は見事に食い止めた。だが、パイロットと副操縦士は撃ち殺されてしまっている。そこで活躍するのは、もちろん博士だ。セスナの飛行訓練を受けたことのあるグラント博士が、ワシントン・ダレス国際空港そばのセスナ用の小型滑走路に無理矢理着陸するのだ。

神経ガスというのは、この映画の背景には、オウム真理教事件の影響もありそうだ。しかし、現実の9.11のビンラディンの計画案の中にも、原子力発電所への突入というプランもあったようだ。幸運にもこの案はなぜか回避された。

■飛行機で護送中の犯人と二人きり!?

もう一本、自爆テロを試みるハイジャック映画に『乱気流/タービュランス』(1997年)がある。本作は、前半は銃撃戦のあるハイジャックアクション映画だが、後半は密室を活かしたサスペンス映画に変わる。

クリスマスイブの日、ニューヨークのJFK国際空港からロス国際空港へと向かうボーイング747(ハイジャック犯にはジャンボが人気。いまならA380になるのかな)には、5人の客しか乗ってない(設定に無理有り!)。だがそこに、2人の囚人と4人の警護の保安官が乗ることになる。囚人の一人は、態度の悪い銀行強盗犯。もう一人は、無実を主張する連続殺人犯のライアン。強盗の方が、トイレに行くとして付き添いの保安官を刺殺する。強盗犯は、保安官の銃を奪い、ハイジャックを決行する。だが、それをライアンが阻止し、乗客たちを救うのだ。だが、保安官たちと操縦士はすでに死んでしまっていた。

残されたのは乗客と、スチュワーデス3名、副操縦士、そしてライアンである。ハイジャック阻止の活躍もあり、ライアンの殺人罪の無実の主張を信じるスチュワーデスだったが、その後徐々にライアンの行動がおかしくなっていく。気が付くと他の乗客らが消えてしまい、スチュワーデスは、密室である航空機内に殺人犯と2人で取り残されていた。、映画のテイストはサイコサスペンスになっている。

ライアンは、機長や保安官らをシートに座らせて、その死体にデコレーションを施す。そして、スチュワーデスをいたぶりながら追い詰めていく。だが、最終的な彼の目的は、ロスの街中に飛行機を墜落させることだった。ライアンは自分が死刑を免れないと覚悟しているのだ。その目論見を阻止するため、ジャンボの後尾にはF-14が張り付いている。そんな緊縛する状態の中、スチュワーデスは機を着陸させようと挑む。

■9.11後のハイジャック対策の変化

『エグゼクティブ・デシジョン』『乱気流/タービュランス』は、それぞれテロリスト、サイコパスによる航空機を使った自爆テロがモチーフである。「テロリストたちは、ハリウッド映画を観ていて、その想像力を真似たのだ」だといった批評家がいたが、テロリストたちが観ていた映画とは具体的にこれらだったのかも知れない。

9.11事件以後、アメリカの航空会社は、大幅にセキュリティを強化する。例えば、操縦席のドアは、頑丈な鍵が取り付けられ、飛行中、離着陸時は鍵をかけるルールが徹底された。同時多発テロの2001年頃は、パレスチナ過激派の運動も落ち着き気味だったため、ハイジャック対策の重要性が低下していた時期だったという。『エグゼクティブ・デシジョン』にはハイジャック犯が操縦席に踏み込んで即「俺はパイロットだ」とパイロットに緊急時の警告発令の動作をさせないように機先を制していた。実際の9.11の犯人たちも、自爆テロに挑むために1年前から航空学校で操縦の訓練を受けていたという。また本作には、乗客の中に、拳銃を持った航空保安官が乗り合わせていたが、航空保安官の制度は1992年頃に専任制が廃止され、ボランティア制になっていたようだ。この制度は、9.11後に再強化され、数千人規模の専従要因が航空保安官として働いている。

また、『エグゼクティブ・デシジョン』『乱気流/タービュランス』ともに、いざというときにミサイルで撃ち落とすためのF-14(『トップガン』でおなじみの機体だが2006年に退役)が張り付いている。アメリカでは緊急時の「民間機撃墜権限」には、大統領の許可を必要とする(それが「エグゼクティブ・デシジョン」の題名の意味)が、この権限は、9.11後、アラスカ、アメリカ本土、ハワイの3地区の空軍最高責任者が独自判断で撃墜できるよう大統領より付与されたという。

■超駄作。悪魔崇拝のロッカーがハイジャック犯

もう1作、9.11前に公開された『デンジャーゾーン/タービュランス3』という映画がある。多分、こんな駄作はアルカイダだって観ていなかっただろう。内容はこういうものだ。悪魔崇拝的ショックロッカーの、スレイド・クレイブンがボーイング747の機上で、40名のファンを招待し上空ライブを開催。100万人以上が監視するインターネットライブが行われる中、ハイジャック犯はスレイドに入れ替わり、ライブのステージで機長を銃殺。ハイジャックグループは、本物の悪魔崇拝者だった……。

と設定だけ書くと、おもしろそうな気がするが、これがつまらない。冒頭15分で説明が済むような話部分を延々と伸ばし1時間かけたり、行き当たりばっかりでまったく話も前に進まない。途中、実は悪魔崇拝者が内部に入り込んでいたという展開を見せるが、それもなんの伏線もなしに進むから、それでどうと思わせることもない。

悪魔崇拝者が犯人というケースは、冒頭のハイジャックの区分で言えば「精神異常者」のケースになるだろう。実際、彼らはハイジャックをして要求を突きつけるが、その内容が「偽善のない世界の実現」というものだった。よくわからない。外部から航空機の中をウォッチしているハッカーも活躍する。彼は、飛行機の中で縛られている本物のスレイドが軟禁されている位置を、飛行機を3Dスキャンして探し出すことができる。まさにスーパーハッカー。なのに、なぜかホームページをプリントアウトしてから読んだりする。ハッカーとしては天才的なのに、パソコンは初心者みたいな。

映画は、軟禁されていたショックロッカーのスレイドがスーパーハカーの情報に従って犯人たちを退治して終わる。だが、敵の最後の一人である操縦士のルトガー・ハウアーが、突然自殺を図る。これで操縦できる人間が誰もいなくなる。悪魔崇拝者たちの目論見とは、1000万人がネット中継で見守る中、飛行機の乗客を道連れに自爆テロを敢行することだった。

だが最後はスレイドが、スーパーハカーのフライトシミュレーションの知識で誘導して着陸。航空パニック映画至上もっとも簡単に操縦できる機種だったようだ。どこをとっても駄作なこの映画だが、公開日が2001年5月13日。9.11のたった4か月前であった。まさか、テロリストたちはこれを見ていたりした? うーん。

■9.11以後のハイジャックムービー

話を進めよう。9.11以降のハイジャックムービーはどうなったか。取り上げるべきは、セミドキュメンタリーの『ユナイテッド93』だろう。

これは、アメリカ同時多発テロでハイジャックされた4機のうち、乗客たちの抵抗のためにテロリストたちが目的を果たせないまま墜落したとされるユナイテッド航空93便の離陸から墜落までの模様を映画化したものだ。機内で起こったことが丸々記録されていたわけではないので、多くの部分は想像で書き足されたフィクションではあるが、実際に機内から外部と携帯電話で話をしていた乗客から得た情報など、事実に近い側面もある。どのように現実のハイジャックが行われたかという想像をかき立てる作品である。

ハイジャックものの名作は、9.11以後ぐんと減ってしまう。ハイジャック映画は、残念ながら現実のハイジャッカーの想像力と密接に結びついており、両社を切り離すことが難いジャンルである。現実のスペクタクルが想像力を超えてしまうと、いくらハリウッドでもその先を生むことはできない。現代は、まさにハイジャックムービーが現実に負ける時代なのかもしれない。

さて、時代が少しもどって『コン・エアー』(1997)は、実際のハイジャック史やテロの現状とはまったく無縁な馬鹿ハイジャック映画である。これまでの原稿の流れの中に入れることができなかったので最後に回したが、「悪」とは何かを考える上でもっとも相応しい作品でもある。

『コン・エアー』とは、“囚人航空会社”の意味。凶悪な囚人たちを護送する飛行機が、囚人たちにハイジャックされる話である。とにかくいろんな悪党を取りそろえて、飛行機に乗せてみましたという「悪の総合百貨店」的な映画で、ハイジャック映画の分類で言うと「逃亡」に分類できる。

浮気した妻の一族を皆殺しにした男、粗暴な強姦殺人魔、麻薬王の二世、スティーヴ・ブシェミ演じるシリアルキラー。そして、そんな彼らのボスは、人生の大半を刑務所で過ごす犯罪の天才。頭が切れ、博士号を2つ持つサイラス。彼らが主な登場人物である。そんな極悪犯罪者たちの中で、仮釈放の予定のニコラス・ケイジ演じる主人公は、囚人仲間で糖尿病の黒人と看守の女性をかばいながら、彼らの逃亡計画を失敗させようと奮闘する。

脱出に成功した犯罪者たちが、レイナード・スキナードの『マイ・スウィート・アラバマ』をBGMに大騒ぎするシーンはブラックなジョークの場面だ。レイナード・スキナードはツアー中の飛行機事故で主要なメンバーが死んでしまった悲運のロックバンドである。

『コン・エアー』の納得しがたい部分は2つ。ひとつは、理知的な元軍人である主人公がニコラス・ケイジであるということ。もうひとつは、後半ラスベガスに不時着したあとに延々カーアクションが続くこと。これ以外は、痛快な作品である。

さて、ここまでたっぷりハイジャック映画について触れてきた。戦前から戦後へ、東西冷戦からテロリズムの時代へ。そして9.11以後。この記事はつたないながらもハイジャック映画で見る戦後の世界の政治史という内容になった。航空機、犯罪・テロリズム、政治、映画。ハイジャック映画を辿るということは、自ずとこの3つの情勢変化を辿るものにならざるをえないのだ。書籍の企画とまでは行かずとも、我ながらいい題材だなと思いながら書き連ねてみた。ここでは書き切れなかった重要なハイジャック映画もまだたくさんある。いつか、この内容で機内誌で連載してみたい。それが夢である。

 


【主要ハイジャック映画リスト】

高度7000米 恐怖の四時間(1959年)
吸血鬼ゴケミドロ(1968年)
ハイジャック(1972年)
オスロ国際空港 ダブル・ハイジャック (1974/英)
エンテベの勝利(1976年)
特攻サンダーボルト作戦 (1976)
サンダーボルト救出作戦 (1977)
エアポート'80(1979)
地獄のテロリスト/銃殺!レイプ!恐怖のフライト(1985)
デルタ・フォース(1986)
ハイジャック・パニック! 戦慄の847便(1988)
ダイ・ハード2(1990)
パッセンジャー57(1992年)
クリフハンガー(1993)
エグゼクティブ・デシジョン(1996)
エグゼクティブ・コマンド(1997)
乱気流/タービュランス(1997)
コン・エアー(1997)
エアフォースワン(1997)
スネークフライト(2006)
エアレイジ(2000)
エグゼキューター 復讐の黙示録(2001年)
エアースコルピオン(2001)
デンジャーゾーン/タービュランス3(2001)
エア・マーシャル(2003年)
リチャード・ニクソン暗殺を企てた男(2004年)
パニックフライト(2005年)
ユナイテッド93(2006)
スネーク・フライト(2006年)
デッドフライト(2007年)
乱気流 タービュランス・アタック(2010)

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