2011年3 月10日 (木)

世界で負け続ける日本経済とニッポンのSEIKO このエントリーをはてなブックマークに追加

松田聖子が最初に全米進出を掲げたのは、1985年のこと。だが、この年は結婚、一時休業の年となり、実際に動き始めるのはその数年後。全米進出の前準備として1988年に、娘と夫を東京に残し、ニューヨークに移住。英語のレッスンをしたり、近藤真彦と密会をしたりと、着々とデビューに向けたレッスンや話題づくりを行っている。

1980年代後半、バブル景気とプラザ合意後の円高を背景に、三菱地所がロックフェラービル買収し、ソニーはコロンビア・ピクチャーズを買収するなど、ジャパンマネーが大きく幅を利かせた時代。1987年の『ロボコップ』は、日本車の台頭によって荒れ果てたデトロイトを舞台にされた。1988年の『ダイハード』は、ナカトミビルという日系企業の資産を狙ったテロの物語。日本経済が、アメリカにとって驚異だった時代である。日本人の資産家が、ゴッホやルノアールなどを金にまかせて買いまくり、自分が死んだらゴッホを一緒に燃やして欲しいと発言した資産家が批判を受けた。

お金はあるけど、文化のない国。それが、当時の日本の位置づけだった。少なくとも日本人は自分たちのことをそのように感じていた。実際、日本は世界に嫌われ始めていたが、かつての勤勉で小器用な途上国のイメージを脱し、誰もが認める経済大国へと成長してはいた。

松田聖子の全米進出は、そんな時代に目論まれたプロジェクトである。つまり、マネーや加工貿易でだけではなく、文化やソフトでも日本は世界に通用する国になるべきだ。そうした産業界の、いや日本国民全体の悲願を乗せて進められたのが、松田聖子の全米進出だった。

松田聖子がSEIKOの名義で全米デビューを果たすのは1990年のこと。湾岸戦争の年。日本はこの戦争で金だけ出して叩かれた。

「SEIKO」の名義は、世界に誇るメイド・イン・ジャパンの有名ブランド“服部セイコー”と重なる。デビュー曲はデュエットだったが、その相手は当時、人気絶頂のニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックのメンバー。彼らはソニー系のレーベルに所属。あちらこちらにジャパンマネーのレバレッジが利いているのだ。オールジャパン。

ちなみに、デビューシングルではわからないが、この時のSEIKOの路線とはこんなだ。

 

『フーズ・ザット・ボーイ』という題名はマドンナへのアンサー。路線は、明らかにこの当時のちょっと前のマドンナを意識している。マドンナが主演した映画『フーズ・ザット・ガール』(1987)は、ニューヨークが舞台だった。同じくニューヨークを舞台にした『ワーキングガール』(1988)の影響も少し見える。こうした背景情報を知ると、松田聖子が全米デビュー前にニューヨークに移住した理由も見えてくるだろう。

挙国一致で押し出されたデビュー曲だったが、ビルボードのランキングは、最高54位止まり。とても費用に見合う結果ではなかった。SEIKOの敗北ではなく、オールジャパンの敗戦。アメリカに負けないものづくり大国となった日本が挑んだ、太平洋戦争の2回戦は、またも撃沈であった。

だがSEIKOはめげない。この6年後、彼女は、2度目の挑戦を行なう。プロモーションでセミヌードまで披露した。だが、これも成功しなかった。

この時は誰を意識したものだったんだろう? ハウスミュージック。時代的にはキャシー・デニスとかだったのだろうか。この当時の女性ボーカルのハウスがまったく思い出せない。クリスタルウォーターズとかではないし。

さて、この2度の失敗にこりず、SEIKOはさらに6年後に3度目の挑戦を果たす。ここでも路線が行われる。3度目の全米挑戦時のアルバムジャケットはこれ。

Area 62

 

これは一目瞭然だと思うけど、ここでの路線変更は、明確にR&B(笑)。シャネルズ以来の暴挙というか……。

 

当時のローリン・ヒル(フージーズ)のジャケ風なのか、もっとそっくりなパクリ元があったような気もする。音楽的には聞いてないのでよくわらない。もちろん、これも売れ行き的に成功とは行かなかったわけで、今に至る。

こんな風に見てきたSEIKOのアメリカでの敗北の歴史とは、`90年代以降、経済大国の座から滑り落ち続けた日本の姿そのものとして見ることができそうだ。90年代にマネーゲームで敗戦し、強かった半導体も競争力を失い、その後、トヨタが拠点をアメリカに移しながら世界一の自動車メーカーになればなったで謎のリコール騒動が引き起こされる云々。

それでもすごいのは、松田聖子(というか、プロジェクトを動かしている人たち)はまだ全米進出の夢をあきらめていないところにある。彼女は、今も全米進出を目論んでいる。日本経済が見習うべきは、この不屈の精神だろう。

次は勝って欲しい。がんばれSEIKO! 4回戦の敵はレディー・ガガだ。

 

著書

about::フリーランス編集者・ライターの速水健朗のブログ。ディスコや歌謡曲などについて。

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