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2013年9 月14日 (土)

飛行機の機内上映では絶対見られない! ハイジャック映画の世界へようこそ(前編) このエントリーをはてなブックマークに追加

ハイジャックが描かれる映画のジャンルがハイジャック映画である。

ハイジャック映画に出てくるハイジャック犯は、ハリウッド的な類型的な悪として描かれる。アラブのテロリストに悪魔崇拝者、凶暴な強盗犯にサイコキラー、南米の麻薬組織に精神異常者。ハリウッド映画におけるハイジャッカーたちの描写を振り返るだけで、ハリウッド版「悪の博物館」の一丁できあがりである。

では、さっそくハイジャックムービーの歴史を振り返りつつ、その犯人の描かれ方――つまりハイジャック犯のキャラ、動機、時代の情勢変化など――に触れていきたい。

■現実のハイジャックには3つの種類がある

まずは、現実世界の「ハイジャック史」を軽く振り返っておく。

世界で最初にハイジャックが発生したのは1931年のこと。場所はペルー。その世界初のハイジャック犯の目的は、上空から宣伝ビラをまくこと(!)だったという。なんと牧歌的な。さらに本格的なハイジャック時代の始まりは、第二次世界大戦後ということになる。

ルーマニアから民間機を乗っ取り、トルコを経由して西側社会に亡命しようとした犯人がパイロットを射殺する事件が1947年に発生した。これが政治的亡命を目論んだハイジャック事件の第1号である。しかもこれが飛行機乗っ取りにおける最初の死亡事件でもあった。

さて、ここでまずハイジャックを目的別に分けていみたい。ハイジャックは、大きく3つに分類可能である。

1つ目は、「逃亡目的」だ。歴史上もっともハイジャックが流行したのは、1961年頃のこと。これは、キューバが共産主義国を宣言した直後の時代。ハイジャックが発明されて以降、最も多く利用された人気ルート。それが、アメリカ発キューバ行きというコースであるという。アメリカとの国交がなくなった祖国への帰還を目的としたハイジャックが後を絶たなかった。さらには、アメリカで犯罪を犯した犯罪者が、逃亡目的でキューバを目指すというケースも多いようだ。

2つ目は、「政治目的」のハイジャックである。ハイジャックを有効なテロの手段として見出し、その手法を進化させたのは、マルクス・レーニン主義を信奉する過激左翼集団パレスチナ解放人民戦線(PFLP)だった1967年に勃発した大三次中東戦争で、アラブ連合の航空戦力は、イスラエルの航空兵力の前に2時間50分で壊滅した。この圧倒的な戦力差の下、アラブ諸国は通常戦力としてのイスラエルへの抵抗という手段を失なった。それと同時にテロ組織が生まれてきた。テロリズムとは、世界にその存在をアピールするための手段として生まれてきた。過激左翼集団、つまり「共産主義」は、あくまでも看板だった。この時代、アメリカやイスラエルといっ敵に抵抗する勢力の代表が、共産主義だったに過ぎない。その後は、こうした抵抗は「イスラム過激派」へと看板が変化する。話を戻すと、1968年のローマ発テルアビブ行きエルアル航空機のハイジャックを手始めに、PFLPは飛行機の乗っ取りという形式のテロを重ねるようになる。特に中東に多くの路線を持っていたTWA(当時)は、PFLPにとって「帝国主義の手先」(『戦後ハイジャック全史』稲坂硬一)であり、格好の標的でもあった。

3つ目は、「精神異常者の手によるもの」によるハイジャックだ。実は日本では、これを理由としたハイジャックが大半だという。つまりは、受験勉強に嫌気が差したなどのノイローゼから犯行に至るケースがこれに当たる。比較的最近の記憶に新しいところでは、フライトシミュレーションゲームで磨いた技を使ってみたかったという理由でハイジャックが行われた事件があった。1998年7月の「全日空61便ハイジャック事件」がそれ。犯人は航空機マニアで、実際に操縦桿を奪い、シミュレータで練習したとおりにレインボーブリッジをくぐるつもりだったようだが、実行する前に取り押さえられたこの3つ目のハイジャックのパターンは単独犯がほとんどなので、成功率は極めて低いという。


こうした3つのハイジャックの分類は、ハイジャック映画においてもそのまま使える分類法である。

ちなみにハイジャックは、通常の市民的な犯罪とはまったく違った性質を持った犯罪の分野である。ハイジャックは、ときに国境を越えるための緊急時の交通手段であり、またときに戦争に変わる政治的目的の遂行手段でもあり、また世界になんらかのメッセージを伝えるためのメディアでもある。ライト兄弟は単なる乗り物として飛行機を発明したが、それは同時に、ハイジャックという犯罪の発明でもあったのだ。

■ハイジャック映画とは何か?

ハイジャックムービーとは、基本的には「パニック映画」と「グランドホテル形式」を足したジャンルと考えることができる。パニック映画であるというのは当然である。乗り合わせた乗客と搭乗員と犯人、彼らはうまく対処しなくては全員墜落死するのだ。なんとか、その危機を切り抜けるための冒険活劇要素は必ず含まれる。

舞台は機内だけではない。地上(空港)の人々も登場する。事件を見守る管制塔、警察、空港職員、乗客の家族、そして犯人の協力者などである。機上と地上。ハイジャック映画では、ふたつの場所が舞台となり、複数の人々の群像劇として描かれることが多く、こうした形式は、「グランドホテル形式」と呼ばれるものに近い。

ハリウッドにおけるハイジャックムービーの歴史の始まりは、1972年のジョン・ギラーミン監督、チャールトン・ヘストン主演の『ハイ・ジャック』(原題:Skyjacked)と考えられている。この時代背景、監督の人選を思うと、ハイジャック映画は、パニック映画の一分野として誕生していると考えることができるだろう。


Airport
まずは、こちらを取り上げよう。空港を舞台としたパニック映画が『大空港』(1970年)である。舞台は大雪のシカゴのリンカーン国際空港。バート・ランカスターが空港長、ディーン・マーティンが機長、その愛人がスチュワーデスの制服が似合うジャクリーン・ビセット。着陸した便が雪でコントロールを誤り、滑走路をふさぐ事故が発生。そんな大忙しの最中、夫がダイナマイトを抱えて飛行機に乗ったと訴える夫人が現れる。どうやら仕事で失敗し、保険金目当てで飛行機に乗り込み、事故を起こそうとしているらしい。

これは、いわゆるグランドホテル形式の大作。この作品自体は、ハイジャック映画そのものとはいえない。むしろ、この後シリーズ化される『エアポート』を生むパニック映画という分野のはしりとなった一作である。

ハイジャック映画の誕生は、この大作の翌年の1971年。題名はそのものずばり『ハイジャック』なのだが、本作はミステリ仕立てである。ハイジャック犯が当初正体を明かさない。トイレの鏡に要求が書き込まれるところから始まるのだ。だが実は僕はこの作品を観ていない。なぜならDVD化もされておらず、ギラーミンのWikipediaの項目にも記述がない程度の作品なのだ。それでもデータベースサイトなどにあるあらすじを追うと、ハイジャック犯は、最終的にソ連への亡命を希望し、ラストではソ連兵に射殺されてしまう。とはいえ、東西冷戦といった政治的な状況を描いたわけではなく、ハイジャックの3つの動機で分類するなら「精神異常者の手によるもの」に類するようだ。これ以上は、観てみないとなんともいえない。

 

■とにかく標的はイスラエル

1970年代は、政治的なハイジャック事件の時代である。日本赤軍のメンバーが日航機を奪取し北朝鮮に渡ったよど号事件は、日本初のハイジャック事件である。犯人のリーダー田宮高麿による「我々は“明日のジョー”である」という、有名漫画の題名を誤って記した声明が有名である。彼らは、世界同時革命を目指す共産主義の信奉者で、アジアにおける一斉蜂起をめざして日本を飛び立つ手段として航空機を選択した。

1973~74年は、国際的にテロの脅威が高まり、中でもハイジャックの件数が月間20~30件を記録していたという、ハイジャック繁忙期だった。そんな時代を背景に作られたのがショーン・コネリー主演の『オスロ国際空港/ダブル・ハイジャック』(1974年)というイギリス映画である。本作は、ノルウェイの英国大使館が占拠され、同時に航空機もハイジャックされるという政治テロを描いている。

ハイジャッカーたちは国際的な左翼過激派集団である。これは当時の社会背景をなぞっているがどんでん返しが待っている。実は彼らは政治的なテロを装っているが……まさに『ダイハード』シリーズの原点である。意外な人物が犯人であるというミステリーでもある。

本作には犯人が刑務所にいる仲間の釈放を要求し、ノルウェイ政府がそれに答える場面がある。現実の「エールフランス139便ハイジャック事件」が起こるのは、この映画の2年後のことだ。アテネ発パリ行きのエアバスA300をハイジャックしたのは、「パレスチナ解放人民戦線・外部司令部」と西ドイツの「革命細胞」という極左組織だった。彼らは、この機をウガンダのエンテベ国際空港に強制着陸させ、ユダヤ系乗客を人質として残してイスラエルに服役している40名同胞の釈放を要求した。

この事件は、特殊部隊による人質奪還事件の成功例として知られる。徹底抗戦の姿勢を貫くイスラエル軍の人質解放作戦によって、犯人6人全員が射殺されたのだ。この事件は格好のアクション映画の題材となった。この事件 を元にした『エンテベの勝利』(1976年米)『特攻サンダーボルト作戦 』(1977年米)『サンダーボルト救出作戦』(1977年イスラエル)という3本の映画が作られている。

このハイジャック事件が、アクション映画の格好の題材であったのは間違いないがそれだけではない。イスラエル政府が、政治的な意図を持ってこうした映画をスポンサードしたのだ。そのことを指摘しているのは、パレスチナ出身の批評家サイードである。彼は「イスラエルが世界に対してうまく証明しようとしてきたのは、イスラエルこそがパレスチナ人の暴力とテロによる無実の犠牲者であって、アラブ人とムスリムはただユダヤ人に対する不合理な憎しみのためだけにイスラエルと衝突している」と指摘している。

簡単に言うと、イスラエルはハイジャックというテロリズムに手を焼いていた。そして、潤沢な資金でもってハイジャックが敗れる映画をスポンサードした。これはつまり敵対勢力であるアラブを悪者にするためのプロパガンダである。ハイジャックが敗れる映画にはこうした意味合いも含んでいるのだ。

80年代を代表するアクションスターの一人、チャック・ノリスの代表策である『デルタ・フォース』も、実在のハイジャック事件を元ネタとしていた。1985年に起きたイスラム聖戦機構がTWA機をハイジャックし、同志700名の釈放をイスラエル政府に突きつけたという事件である。

 

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カイロ発アテネ-ローマ経由ニューヨーク行きの航空機が、アラブ人テロリストにハイジャックされる。犯人たちの要求で機はベイルートに着陸。一方、事件を知った米政府は、人質救出任務を行う対テロ部隊デルタフォースを招集。すでに部隊を去っていたベテラン隊員のチャック・ノリスもこれに同行する。

飛行機の中でテロリストたちは、ユダヤ人と観られる乗客の選別を行い、米海兵隊員をリンチする。名前だけでなく、かつてのナチスに彫られた識別番号でユダヤ人であることが示される場面なども描かれている。映画の後半は、テロリストたちを、チャック・ノリスたちに完膚無きまでにやっつけるという勧善懲悪アクションだ。ミリタリー好きの少年時代を過ごした僕らはこの映画で特殊部隊が使用するウージー社のmini Uziを知った。映画の世界ではおなじみの兵器である。これは、狭い場所での使用を前提に設計された取り回しがきくイスラエル製のサブマシンガンである。Uziはおもちゃのエアガンもたくさんつくられた人気のある銃だった。

このB級アクションも映画がイスラエル軍の全面協力の下でつくられている。監督もイスラエル人である。80年代は、たくさんの戦争アクション映画が作られた時代である。僕自身もそんなミリタリー要素の強い映画のファンだった。中でも、特殊部隊がテロリストたちと戦うB級アクション映画はたくさん作られていた。当時の日本劇場未公開作で、ハイジャックをモチーフにしたものも少なくなかったようだ。それらのB級戦争アクションが生まれる背景に、プロパガンダ的な側面があるなど、もちろん当時は考えもしなかったことだ。

■内なるテロとの空の大決戦

90年代になると、過激派によるテロやハイジャックの標的はイスラエルという常識に変化が現れる。イラン・イラク戦争、東欧革命、ソ連解体、そして湾岸戦争を経た世界の政治状況は、より複雑なものとなっていた。より新しいテロリズムの時代が到来する。国民国家同士が国境越しに向かい合うような戦争の在り方がリアリティーを失っていった時代に、アメリカは、世界中、または国内に遍在するテロリスト立ちと向かわざるを得なくなる。ハイジャックの恐怖は、まさに内なるテロそのものだ。

その新しい時代の「恐怖」をうまく作品に活かしたのが、『エアフォースワン』である。本作は、物語の大半が飛行機の中という純粋な密室ハイジャック映画だが、ハイジャックされるのは豪華で最新技術の結晶である大統領専用機、そしてハイジャッカーに単身立ち向かうのは、ハリソン・フォードが演じるアメリカ大統領である。

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最高度のセキュリティを誇るはずの大統領専用機に、敵のテロリストを招き入れる内通者が潜んでいる。この設定は、テロの胞子を内側に抱く時代のハイジャックの在り方を象徴する。
 この映画で描かれる敵は、アラブではない。敵はロシア人の国粋主義者で旧ソ連体制を復活させようと考える共産主義者だ。ハイジャック犯は、ロシア軍・米軍の共同作戦によって排除されたカザフスタンの政治的指導者ラデクの釈放を要求する。

テロリストのリーダー(ゲイリー・オールドマン)は、「ソ連崩壊後のアメリカ式の自由経済主義がロシアを強盗と売春婦ばかりにした」と、アメリカ大統領を演じるハリソン・フォードをつるし上げる。この作品の制作は1997年。ロシアの急速な経済成長は、この映画の直後くらいからなので、この時点でロシアは負け組の感が強かったのだ。

釈放されるラデクは、カザフスタンの一般市民10万人を殺戮したソビエト出身の国家社会主義者。彼の釈放を祝福する刑務所内の共産主義者たちが、労働者たちの海を越えた団結を歌った共産主義革命のテーマ曲である「インターナショナル」を大合唱する場面がある。この『インターナショナル』をBGMに、飛行機内でハリソン・フォードとゲイリー・オールドマンが殴り合い、撃ち合いを演じる場面と合唱の場面がカットバックで映される。このシークエンスはこの映画の中でも最高の場面である。もちろん、最終的にはハリソンが勝利を収めて家族を守る。いつものとおりアメリカの平和は守られる。ちょっと共産主義がこけにされ過ぎた感がある。

さて、本作にはハリソン演じる大統領の演説シーンがある。彼は、カザフスタンの市民10万人が殺戮されたことを悼み、アメリカの軍事介入が遅れたことを謝罪する。そして、今後アメリカは自国の利益のためではなく、正義のために軍隊を動かすと宣言するのだ。このハリソン・フォードの宣言に対して大統領の側近は、世界はこのスピーチを賞賛するだろうが、自国民からは反発されるだろうとつぶやく。この辺は、昔の映画という感覚になる。

イラク戦争後、大量破壊兵器を巡る事実誤認が示され、アメリカの正義なき介入が批判されているいまとなっては完全に逆である。ビン・ラディンのパキスタンでの暗殺でもそういう気運があったが、世界はアメリカが「世界の警察」であることに疑問を持つようになっているし、アメリカ国内でもそれへの倦厭の空気が強まっている。

この映画の後、現実のアメリカ大統領が、映画と同じように世界にとっての悪(テロ)との独善的な徹底抗戦を宣言した。それは、映画の4年後、9・11直後のこと。もちろん、ジョージ・W・子ブッシュ前大統領である。9・11の同時多発テロでよく耳にした常套句に、「現実がハリウッドを模倣した」というものがあった。この演説こそがまさにそうだったのではないか。

ハイジャック映画の話は、またこのあとの後編に続く。ちなみに、この原稿の初出は映画同人誌『Bootleg』の「Noir」特集号に掲載されたものです。

 

 

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