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2012年4 月27日 (金)

ドリカムと自動車普及の関係 このエントリーをはてなブックマークに追加

自動車が売れない時代と言われて久しい。新車販売台数のピークがバブル崩壊の1991年。以降、基本的には右肩下がりを続けている。だが、別の指標を見てると、また違った面が見えてくる。

Cargraph
(国土交通省調べ 出所:(社)日本自動車工業会)

 上の図は、自動車の保有台数の推移のグラフ。新車販売台数のピークは`91年だが、保有数は`00年代初頭まで伸び続けている。その後、横ばいで`08年以降、転落に転じる。そして、明確なのは、保有台数が急速に延びているのが、1989年~97年頃の時代であるということ。その前後は、むしろ横ばい。つまり、90年代を通してクルマはそこそこ売れ続け、00年代になって鈍化したということがわかる。ここからわかるのは、自動車の魅力が低下したということではなく、単に国民全体に普及しきった、飽和状態にあるということ。

その急速に自動車の普及率が増した`88~`97年ごろとは、ほぼDream Come True(ドリカム)の活躍時期と重なっている。これはおもしろい一致である。

この時期、クルマでドリカムを聴きながらデートをしていたという記憶を有する人たちは少なくないと思う。FM東京は、そんな層を狙ってか、日曜日の午後3時に、「中村正人のサンデーネットワーク」というラジオ番組を流していた。この番組を聴きながらドライブデートにいそしんだ15~25年前の若者たちは今、35~45歳くらいか。

ドリカムソングのデート場面にも、ドライブの場面が登場するものがある。

『太陽が見てる』/ Dreams Come True
あの岬よりも遠くへ
3度目のデートはドライヴ
話しかけても 風が邪魔して
届かない声 もどかしい距離
作詞:吉田美和

1992年の歌。ふたりの関係はまだぎこちない。後の歌詞には、一緒に撮った写真もないということが示される。女の子はカメラをバッグにしまったままで、取り出す機会がまだないのだ。なぜなら、彼は運転に夢中だから。会話も続かないし、クルマから降りようともしない。

この歌は、ある場所で急に場面展開を見せる。

何も言わずにあなたが指さす空は
雲間に延びる 光線の束
車止めて連れ出してくれたの 初めてね
私が変わる あなたも変わってく
膨らんでゆく スペクトルの中
何も言わず 抱きしめてくれたら
うれしいのに もっとうれしいのに

ドライブの最中、景色が急転。ふてくされているのか、それに気付かない彼女に彼はそれを伝えてクルマを停める。2人はその景色を眺めるが、やがて彼女は思い出し、「少し待ってて カバン取ってくる」と車に戻る。カバンの中のカメラを取りに戻ったのだ。やっとツーショットの写真を撮るタイミングが訪れたのだ。ふたりの距離が近づいた瞬間である。

この歌の歌詞がとても吉田美和らしいなと思うのは、クルマの形状やブランド、ドライブのシチュエーションの描写には興味がなく、彼と自分との距離感だけを描き続ける点である。

これがユーミンなら、ベレットなのかセリカなのかという車種、もしくは、コンバーチブルなのかクーペなのかというクルマのタイプを描く。背景も、夜のハイウェイをミルキーウェイのようと描写する。ユーミン以外であっても、80年代の歌なら、海岸道路であったり江ノ島が見えたりしがちだ。吉田美和は、そういった描写に、一切の興味を見出さないのだ。

この歌が切り取るのは、彼と彼女の特別な瞬間であって、クルマやドライブはありきたりな背景に過ぎない。クルマへの憧れがすでに消え失せた世界の歌だ。ユーミンと違って、ドリカムはありふれた日常としてクルマを切って取る。自動車が本格的に普及し、大衆化、日常化、コモデティ化しきっていく様がドリカムの歌から見て取ることができる。

ちなみにこの曲、クルマでなく富士フイルムのCMソングである。80年代には、恋人たちをツナグコミュニケーションツールとしてクルマは機能したが、自動車がコモディティ化しつつあった90年代前半は、その主役がカメラ、特に女の子が持つカメラに移行した時期だったのかもしれない。この頃は、コンパクトカメラのブーム期だったはず。ズーム機能付きの安いコンパクトカメラが登場し、ヒットしていた。「写るんです」の普及もこの頃のこと。これらは、男の子の道具としてのカメラではなく、デートのときに持っていくコミュニケーションツールとしてのカメラだ。

ドリカムの活躍時を、1988~1997年としたが、補足を入れると、売れ行きががくっと落ちるのが90年代末の頃。シングルの売れ行きで言えば、1999年の『朝がまた来る』が50万枚のヒットを記録しているが、これ以降、50万枚を超えるシングルはない。

ドリカムの活躍時と、自動車の普及期が重なっているとして、そのあとの時代を象徴するのが、ゆずだろう。ドリカムが低迷を始めていた1998年に登場したゆずのデビューシングル『夏色』は、彼女と2人で花火を観に行く歌だが、この二人が乗るのはなんと自転車である。

ゆず以降、ヒット曲に描かれる日常のなかからクルマは退場していく。クルマへの憧れどころか、それクルマそのものが歌の中から消え失せる時代になっていくのだ。

著書

about::フリーランス編集者・ライターの速水健朗のブログ。ディスコや歌謡曲などについて。

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