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2009年3 月17日 (火)

遠距離恋愛のソリューション このエントリーをはてなブックマークに追加

太田裕美の『木綿のハンカチーフ』は、「東へと向かう列車」に乗って都会へと旅立つ恋人を送り出す女性の歌。この歌は2番、3番と進むにつれて時間が経過し、都会の生活に慣れた恋人は、結局戻ってこないという結末を迎える。ちなみに作詞者の松本隆は東京都出身。このような上京の経験はない。

いるかの『なごり雪』も駅で恋人との別れを惜しむというもの。「東京で見る雪はこれが最後ね」という歌詞から、舞台である駅は東京にあることがわかる。上京ではなく、地元へ帰ってしまう恋人との別れを描いた歌なのだろう。作詞者の伊勢正三は大分県出身。大学は千葉工業大学なので、上京経験は有り。

この2曲は1976年にヒットした曲だが、それから10年を隔てた1986年のヒット曲『青いスタシィオン』も上京鉄道歌謡。これを歌っているのはおニャン子クラブの河合その子。前の2曲に比べれば知名度的には劣るかもしれないが、この曲は個人的には80年代のアイドル歌謡の最高峰だと思う。

「スタスィオン」とはフランス語の“ステーション=駅”のこと。やはり、恋人が旅立つのを駅で見送る内容の歌だ。ちなみに作詞者の秋元康は東京出身。上京の経験はない。

どれも卒業、就職のシーズンに訪れてしまう恋人との別れがモチーフになっている。

こういった3月の別れは普遍的なモチーフものなのかと思いきや、この手の恋人との別れを描いた上京ソングが、その後流行ったというような印象はない。なぜか?

70年代新幹線の本数の増強や路線拡大、そして90年代の新幹線のスピードアップが地方と東京の関係、そして恋人たちの関係を変えたのだ。

1987年、JR東海は東京−新大阪間の最終列車に「シンデレラエクスプレス」と名付け、東京・大阪と離れて暮らすカップルが、週末を東京で一緒に過ごしたあとに最終列車で帰る恋人を駅まで見送りに行くというドラマ仕立てのCMを放映した。


BGMには松任谷由実の『シンデレラエクスプレス』が流れる。このCMキャンペーンは、ユーミンの曲名から取っている。このCMに出演している横山めぐみは、僕らの世代にとっては少し特別な女優であった。

ドラマ『北の国から』の主人公・純の初恋の相手で、家族で夜逃げして離ればなれになった“れいちゃん”を演じたのが横山だった。電車に乗って横山めぐみに会いに行くというシチュエーションは、絶対このれいちゃんとのエピソードを踏まえたものだろう。

それはともかく、このCMが訴えるのは、週末は一緒に過ごすという遠距離恋愛の形だ。つまり、新幹線のスピードアップによって恋人たちの距離は縮まり、週末に簡単に行き来ができるようになったのだ。

そしてさらなる遠距離恋愛カップル向けのソリューションとして登場するのが携帯電話だ。

「♪ 離れてる気がしないね 君と僕との距離」というのはオレンジレンジの『以心電信』という曲の冒頭部分。さらに「いつも僕等はつながっているんだ」と、距離が離れていても、テレパシーで心はつながっているという歌なのだが、これはauの携帯電話のCMタイアップソングだった。

こういった具合に、テクノロジーの進化とともに3月に離ればなれになる恋人たちの在り方も、テクノロジーやメディアの進歩に下支えされ、変わっていくのである。

(週刊アスキー『恋のDJナイト』より転載&幾分修正)

2009年3 月12日 (木)

卒業のマジックイヤー このエントリーをはてなブックマークに追加

あまりブログを放置するのもあれなので、週刊アスキーの歌謡曲連載の1年前の記事を転載。少し修正しつつ。菊池桃子のドラマ『卒業』と『テラ戦士ΨBOY』が収録された限定DVD欲しいんだけど、ヤフオクでもまだ1万円超えてるんだよなあ。

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1985年は歌謡曲ファンの間では「卒業のマジックイヤー」としてよく知られている年である。

`85年1月21日に尾崎豊の『卒業』が発売され、翌月2月21日に斉藤由貴が『卒業』でデビューを果たした。そして、さらに翌週の2月27日には、菊池桃子の『卒業-GRADUATION-』が発売されている。

卒業ソング三連発。ちなみに`85年はバース岡田がホームラン三連発をバックスクリーンまでかっ飛ばし、阪神が21年ぶりにセリーグ優勝を遂げた年でもある。

さて、斉藤由貴版『卒業』は筒美京平・松本隆のコンビ、菊池桃子版『卒業』は秋元康・林哲司のコンビ。両曲ともに強力なソングライティングチームの手によるもので、どちらにも軍配を上げ難い名曲。

しかし、卒業ソング3曲の中の勝ち組は、当時はもっとも売れなかった尾崎豊の『卒業』だろう。今でもカラオケで歌われ続けており、その場にいる男全員で、「夜の校舎 窓ガラス壊してまわった」のパートを大合唱するのは、この季節の迷惑な風物詩だ。
悪かった過去などなくとも、まるで自分の体験であったかのように錯覚することができるのが尾崎カラオケが愛される理由。

ちなみに尾崎豊はこの曲が発売された年の前年に、高校を中退。母校青山学院高等部の卒業式当日に、新宿ルイードで行った伝説ライブをもってデビューを飾っている。

斉藤由貴は『卒業』でアイドルとしてデビューした後、『スケバン刑事』などで人気を博すが、次第にアイドル歌手を"卒業"し、演技派の女優へと転身していく。また、1990年に雑誌の企画で尾崎豊と知り合い、互いに惹かれ不倫の関係となってゆく。

われらが菊池桃子は1988年にアイドル歌手を"卒業"し、自称"ロックバンド"のラ・ムーを結成。こちらのその後については特には記さないでおこう(「菊池桃子と木村カエラ、どっちが本当のロックだ? 」←こことかで何度も書いてるし)。

1985年は日本社会にとってもある意味卒業の季節だった。それまでは円安に助けられていた国内の輸出産業は、85年のプラザ合意によって規定された円高ドル安路線の中で、自立を余儀なくされるようになる。アメリカからのちょっとした卒業である。

1985年に、実はもう一曲『卒業』というタイトルの曲があった。元わらべの倉沢淳美の『卒業』だ。わらべから高部知子が卒業したのはよく知っているが、この曲のことはよく知らない。
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著書

about::フリーランス編集者・ライターの速水健朗のブログ。ディスコや歌謡曲などについて。

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