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2008年8 月21日 (木)

『東京デッドクルージング』東京論としてのノワール小説 このエントリーをはてなブックマークに追加

東京デッドクルージング このミス大賞シリーズ
深町秋生
宝島社
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マフィア、ヤクザ、腐敗した警察といった組織犯罪を描き続けるノワール小説の書き手・深町秋生の特徴は、大沢在昌や馳星周といった先行世代のクライム作家たちが舞台として新宿歌舞伎町のような都会を選ぶのと反対に、地方都市、郊外的風景を選ぶところにある。

デビュー作の『果てしなき渇き 』は、16号線沿いのコンビニ強盗から始まっていたし、青春小説の要素が入った2作目の『ヒステリック・サバイバー』は地方都市が舞台だった。『OUT』に代表される桐野夏生の小説が、ノワール系作家の作品よりもリアルに感じられるのは、取材力もあるのだが、彼女が舞台として選ぶ郊外や地方のリアリティーが関係にしているように思う。都会を戯画的に描くのではなく、郊外をリアルに描くのが桐野だとすれば、深町はその線上にいるように思う。なので、その深町の最新作のタイトルが『東京デッドクルージング』とは気にくわないなあと思っていた。

冒頭シークエンスの舞台は池袋の元蛇頭が経営する若者向けクラブだ。そこに日本人のテロリストたちが襲撃をかけ、中国系の男を誘拐する。

蛇頭、朝鮮系と多国籍な「不夜城」的な世界観が提示されるのだが、そのまま馳星周の世界へと突入するのかと思いきや、そうではなかった。テロリストたちはシャッター街化した池袋をクルマで一気に駆け抜け、川越街道沿いに板橋を通り抜けて東久留米市へと逃亡する。

とても映像的なオープニングだ。都会の喧噪のナイトクラブから一歩出ると、そこはただの都会ではなく、荒廃した池袋の街であり、さらにあっという間に、深町的郊外世界に持って行かれる。とても魅力的な出だし。まざまざと映像が浮かぶ。

この冒頭シークエンスが示しているのは、これから描かれる世界は決して「不夜城」のような戯画化した東京ではないということの宣言みたいなものだろう。

このオープニングから、主人公、中国マフィア、脱北者、つまり、日本、中国、北朝鮮という三つの陣営が三つ巴の抗争になだれ込むラストまでのストーリーの展開は見事すぎる。正直、3倍くらいの長さのある小説として読みたかったくらいだ。

小説の時代設定は、2016年の東京オリンピックを翌年に控えた今から7年後の世界ということになる。北朝鮮の家督問題、東京“湾岸”オリンピック、芸人政治家の台頭、貧困のさらなる進行、移民・難民の増加といった、今後数年の間に必ず問題になるであろうトピックが物語の背景として描かれている。

そして、この小説のクライマックス。中央線で東京の中心に向かう主人公は、新宿で降りろと言う指令を受ける。東京が舞台となる以上、普通の小説ならこのままクライマックスの舞台は都心に移るはずである。しかし、この小説の主人公は、それを軽やかにスルーしてその遙か先の東京湾岸の晴海へと向かうことになる。この行動は、新宿に執着する既存のクライム小説への深町からの挑戦状であるのだろう。

ちなみに、こちらのブログがすでに指摘しているが、主人公の名前が「晃(アキラ)」で、2016年という近未来のオリンピック予定地や東京湾岸が舞台であるとなると、大友克洋の『AKIRA』への言及という線が隠されているようにも思われる。

1980年代に、映画『ブレードランナー』や『AKIRA』などが荒廃した未来都市のイメージを提示したけれど、その後に続く未来都市像というとあまりパッとしたものではなかったように思う。その荒廃した未来都市のイメージを、この『東京デッドクルージング』は更新しようという意志が感じられる。この作品で描かれた東京をひと言で表すなら、郊外化した東京といったところになるだろうか。

もちろん、エンターテイメントとしての満足度は高い。しかし、それだけでなく郊外を描くことに長けたクライム小説家による東京論という読み方を可能にさせる作品でもある。小説をほめる言葉としては微妙かもしれないが、優れた映像作家による映像化が楽しみだ。


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