« ビーバップの舞台はどこだ、もしくはヤンキーとポストコロニアルについて | メイン | ケータイ小説と書店流通のファスト風土化 »

2008年5 月24日 (土)

生物と無生物と『「謎」の解像度』のあいだ このエントリーをはてなブックマークに追加

「謎」の解像度
「謎」の解像度
posted with amazlet at 08.05.24
円堂都司昭
光文社
売り上げランキング: 19982

(このエントリーのタイトルはホッテントリメーカーが命名しました。)

あの有名なM君の部屋にはドアがなく、カーテンで仕切られていただけだったという。

宮崎勤は「自閉に失敗」したから事件を起こしたのだ、という「見立て」から始まり、渋谷の「広告都市」化、テーマパーク化など(北田暁大)というような概念を援用し、カラオケ、テレクラ、ウォークマン、シンセサイザーなど「メディア」の変遷を執拗に辿りながら、八〇年代以降の時代環境と綾辻行人の“館シリーズ”を関係性を論じているのが、円堂都司昭の批評家としてのデビュー作で、創元推理評論賞を受賞した「シングル・ルームとテーマパーク――綾辻行人『館』論」。

そして、その円堂の新刊『謎の解像度』は、このスタイル、つまり、新本格ミステリの作家たちの作品を通して、現代の時代環境を論じていくというフォーマットで書かれている(「シングル・ルーム~」も本書に収録されている)。

例えば、浅羽通明が『昭和三十年代主義―もう成長しない日本』で、宮部みゆきの『模倣犯1 (新潮文庫)』の消費社会への懐疑的な姿勢を見出すといったように、社会派ミステリに描かれる社会背景を論じる批評というのは楽にイメージできるし、メフィスト系以降のミステリの特異なリアリズムを解説する批評も少なくない。だけど、時代性を切り取ることなく、謎を生むために、時代遅れな古い屋敷や無人島が舞台となりがちな本格ミステリから、現代性を見出すというのは、ちょっとイメージしにくいのではないか。でも、それをやっているのがこの本。本格ミステリの仕掛けや構造に、さまざまな批評的な視点=「見立て」を繰り出していくところが、本書のおもしろさだ。

批評とは、「見立て」を見つける作業であり、その鮮やかさを競うものという面がある。円堂の評論のおもしろさはまさに、その「見立て」の部分。

その例を挙げるなら、
・POSシステム→『多重人格探偵サイコ』(目にバーコードが入った殺人鬼が登場する)→新本格にもたらされた「編集者・DJ感覚」
・検索エンジン→検索の無効化としての叙述トリック
・綾辻の館シリーズ→「テーマパーク型権力」(稲葉振一郎)→iPod的な環境変化
・島田荘司→マイルス・デイビス→編集の概念→テオ・マセロ

といった具合。

もっともおもしろかった「見立て」は、京極夏彦の『絡新婦の理』から、監視社会化、そして環境管理型権力の存在を見出す「見立て」部分。この小説の犯罪は、黒幕であるアーキテクチャーの設計者であり、まさにその中の登場人物は、知らず知らずのうちに犯人や被害者の役割を果たす羽目に陥っていく。

この評論は、本格ミステリというジャンルのブックガイドとしての魅力も高くて、僕は久々に本格ミステリが読みたくなり、とりあえず本書に取りあげられていた麻耶雄嵩の近刊を買って読んだ。(僕も九〇年代まではちょっとは熱心な新本格読みだったのだけど、今はほとんど読まなくなり、これだけは別格と思って読み続けてきた、綾辻の館シリーズ、島田荘司の大長編シリーズ、京極夏彦の京極堂シリーズですら、どれも最新作で挫折している。有栖川有栖の「江神二郎」シリーズの最新刊は読めたけど)。

最後に、円堂の評論家として特筆すべき部分は、メディア史への過剰なこだわりの部分。それは本書の姉妹評論といえる『YMOコンプレックス』でもそうだったが、ウォークマンやCDの登場が、どのように社会を変えたかというメディア論が語られる。両著作とも、実はメインの部分はメディア史・メディア論であり、その切り口としてミステリやYMOが用いられているという見立ても可能なのではないかという気がするほど。

ちなみにYMO自体にはほとんど興味がなかった僕でも『YMOコンプレックス』はおもしろくて一気に読めたように、本格ミステリに興味が無くても、この『「謎」の解像度』はおもしろく読めるのではないかと思う。

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://www.typepad.com/services/trackback/6a01287743ed7b970c0120a840ca34970b

Listed below are links to weblogs that reference 生物と無生物と『「謎」の解像度』のあいだ:

コメント

コメントを投稿

著書

about::フリーランス編集者・ライターの速水健朗のブログ。ディスコや歌謡曲などについて。

検索

  • 検索
     

Amazon

 
Powered by TypePad
track feed