2015年4 月13日 (月)

村上春樹小説における「モヒート」「レクサス」から考える最新型高度資本主義社会 このエントリーをはてなブックマークに追加

 

■春樹と固有名詞

村上春樹の小説には多くの固有名詞が登場する。例えば「ヤナーチェク」。『1Q84』で取り上げられたヤナーチェクのCDがショップの店頭から消失し、急遽再発されるというようなことも起こっている。春樹経由でビーチボーイズを知った人も少なくないだろう。村上春樹の小説を読み解く上で、こうした具体的な固有名詞、文化記号に迫るというアプローチも可能だろう。ビーチボーイズ、ブルックスブラザーズ、マールボロ、トーキング・ヘッズ、ピナコラーダ、ソニー&シェール、シェーキーズ……。

さて『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読んでみて、漠然と気になった固有名詞は「モヒート」と「レクサス」の2つである。

『色彩を〜』で主人公の多崎つくると、そのガールフレンド木元沙羅が東京・恵比寿のバーでデートをするときに飲んでいたのが「薄いハイボール」と「モヒート」だった。モヒート。このカクテルが日本でブームになったのは2011年のことだ。この年サッポロビールと業務提携したラム酒メーカーのバカルディ・ジャパンは、ラムの消費量を増やすための目論見として、ラムを使ったモヒートを流行させるプロモーションに乗り出す。彼らは、サッポロの持つ販売ルートを用いて、バーやレストランなどでモヒートをメニューに加える提案、レシピの提供などを行うPR戦略を展開したのだ。

これと似た形でブームを生み出した酒類の前例として、「ハイボール」があった。2008年にサントリーが自社製品であるウィスキーの「サントリー角瓶」の販売量拡大のために、ハイボールの流行を生み出したのだ。サントリーは、缶入りのハイボール製品を開発し、ソーシャルメディアを使った販促を行った。さらには自社経営のバーや契約店のメニューにハイボールを展開。さらには、テレビCMも投入し、一旦は現代の酒場から消えたハイボールを復活させたのだ。

このサントリーのハイボール戦略の成功を手本にしたであろうバカルディは、同じようにモヒートのPRキャンペーンを成功させ、2011年、ついに夏に飲む酒の定番の地位をハイボールから見事に奪い取ったのである。

■カクテルと「高度資本主義社会」のルール
私たちが生きる世界とは「最も巨額の資本を投資するものが最も有効な情報を手にし、最も有効な利益を得る」というルールの上に築かれた「高度資本主義社会」であるという啓示を識したのは村上春樹である。彼が30年前の日本を舞台にして書いた小説『ダンス・ダンス・ダンス』でのことだ。ハイボールからモヒートへ。これは、まさに巨額の資本投資によってもたらされた「有効な利益」の結果である。

この『ダンス・ダンス・ダンス』という小説の主人公「僕」の職業は、フリーランスのコピーライターだ。広告業界の片隅で生きているが、この「高度資本主義社会」のシステムにはまだまだうまく適応できずにいる。誰もがそれに適応する中、彼だけはそれにとまどっており、それゆえに変人扱いされることも少なくない。「高度資本主義社会」。資本投下と回収によるシステム。それは、ゴージャスなホテルや国際的な高級コールガール組織からデュラン・デュランまでが同じシステムが運営され、なんでも経費で落ちる社会のことでもある。

この作品の中で「僕」は、ある有名作家の娘である13歳の少女「ユキ」の面倒を見るよう依頼される。とはいえ、彼がこの依頼仕事に応じて為すことと言えば札幌で「ウォッカソーダ」や「ブラディー・マリー」を、ハワイで「マティーニ」や「ピナコラーダ」や「ジン・トニック」を飲むことくらいだ。13歳の少女を連れ回し酒を飲むことで対価を得るのも、立派な「高度資本主義社会」の労働に他ならない。「僕」にとっての「高度資本主義社会」の実践の課程が13歳の少女と酒を飲むことだった。

ジンやウォッカといったベースとなる酒にフルーツジュースや別の酒を掛け合わせて作られるカクテルは、まさに「アルコール」という商品価値に別の付加価値を加えるまさに「高度資本主義」的な商品である。実際、村上春樹の小説には、多くのお酒、とりわけカクテルが登場する。冒頭に戻るが『色彩を〜』の主人公「つくる」と「沙羅」は「薄いハイボール」と「モヒート」を作中で飲んでいる。彼らも意識しないうちに、2010年代型の「高度資本主義社会」に生きているのだ。

■バブル、デフレを経て変化した消費社会

「世の中が少しずつ複雑になっていくだけだ。そして物事の進むスピードもだんだん速くなっている。でもあとはだいたい同じだよ。特に変わったことはない」(『ダンス・ダンス・ダンス』(上)より)というのは、この小説のファンタジーの部分である「羊男」の台詞である。これもまた「高度資本主義社会」とは何かを定義するフレーズのひとつだろう。

「だいたい同じだよ。特に変わったことはない」というのは本当だろうか。例えば、現代から『ダンス・ダンス・ダンス』が発表された1988年に示された「高度資本主義社会」の中身を眺めてみると、当時とは随分様相が変わっていることに気がつく。まず「この巨大な蟻塚のような高度資本主義社会にあっては仕事をみつけるのはさほど困難な作業ではない」(『ダンス〜』)というテーゼ、これはダウト! である。昨今の若年雇用問題に関心を寄せる赤木智弘辺りに聞かせたら激怒するだろう。バブル経済が崩壊しデフレが続く中で「巨大な蟻塚」はそれなりに制度疲弊が起こり、新しい蟻に密が行き渡らなくなった。若い世代の就職はわりと「困難な作業」になってしまった。また、主人公は「文化的雪かき」と自虐的に呼ぶライター仕事の数ヶ月分のギャラで、まるひと月遊んで暮らす資金としていたが、現代においては売れてもいないコピーライター、フリーライターのギャラはそんなに高くないとも僕の方から補足しておこう。

また、「ゴージャスなホテルや国際的な高級コールガール組織からデュラン・デュランまでが同じシステムが運営され、なんでも経費で落ちる社会」も、同様にダウトだ。「何でも経費で落ちたのは、単にバブル景気だったからだ」と指摘しているのは批評家の栗原裕一郎(「村上春樹『1Q84』をどう読むか」河出書房新社)である。みもふたもないが真実だ。どうだろう、マセラティ全額は経費では落ちないんじゃないだろうか。もちろん、1988年に刊行された小説が、バブル崩壊後の世界を予測できるわけではないので、春樹に落ち度があるわけではない。

■マセラティとスバルとレクサス

まあ大同小異は別として、消費社会の在り方については、複雑化し物事の進むスピードもだんだん速くなっているという見立ては、外れてはいないだろう。消費社会化の段階変化をシニカルに書くことについて、村上春樹よりもうまい作家はそうはいないように思う(双璧は、ある時期までの村上龍だった)。本作においては、「レクサス」という固有名詞を登場させることで、その役割を果たしているように思う。

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の登場人物「アオ」は、名古屋でレクサスの販売主任の仕事をしている。レクサスは、元々トヨタが1988年(まさに『ダンス〜』が書かれた年)に海外向けラグジュアリークラスカーであるセルシオを輸出する際に用いたブランド名である。BMWやメルセデスに比べると値頃で高性能という評判がレクサスに定着すると、今度は逆輸入という形で日本市場に投入される。日本で逆上陸という形でレクサスの販売が始まったのは、2005年のこと。つくっているのはトヨタだが「トヨタ」のブランドは前面に出していない。とても「高度資本主義社会」的である。

アオの勤めるショールームを訪ねたつくるが、最後に尋ねたのは「レクサス」の言葉の意味である。「よく人にきかれるんだが、意味はまったくない。ただの造語だよ。ニューヨークの広告代理店がトヨタの依頼を受けてこしらえたんだ。いかにも高級そうで、意味ありげで、響きの良い言葉ということで」

経済コラムニストのトーマス・フリードマンは『レクサスとオリーブの木』という本の中で「レクサス」を「冷戦システムに取って代わる国際システム」=グローバル化の象徴と見なしている。フリードマンが見たのは、300台を超えるロボットが1日300台のレクサスを製造する工場だ。「材料を運んでフロアを走り回るトラックさせもロボット化されていて、進路に人間の存在を感知すると『ビー、ビー、ビー』と警告音を発する」という光景が描写される。最先端の技術が集結した工場では、まさに人間が「阻害」される。そんなシステムの象徴としての「レクサス」。フリードマンは、レクサスは「わたしたちがより高い生活水準を追求するのに不可欠な、急速に成長を遂げる世界市場、金融機関、コンピュータ技術のすべてを象徴している」と言い切っている。

『ダンス・ダンス・ダンス』は村上春樹の小説の中でももっとも多く自動車が登場する作品かもしれない。主人公の高校時代の友人であり、売れっ子の俳優でもある「五反田君」は、マセラティに乗っている。彼が所属する事務所が経費として購入したこのマセラティは、海に沈めたとしても保険が下りるんだと五反田君も自虐気味に語る「高度資本主義社会」を象徴する自動車である。そして、このクルマは呪われたクルマでもある。最後に五反田君はこのマセラティとともに自ら海に飛び込んでしまう。
 そんなマセラティの対極に置かれるのは、登場人物の「ユキ」流に言えば「親密な感じがする」という目立たず実用的なスバルである。1980年代までの、つまりレクサス以前の時代の日本車の特徴と言えば、つまらないが堅実。つまり故障知らずで低燃費で低価格が売りだった。日本車が世界のクルマ市場で支持されたのは、まさに安さと堅実さ故だった。

だがレクサスはそういうタイプのクルマではない。値頃なラグジュアリーカー。それが、北米市場におけるレクサスの評価だろう。現代の日本のクルマメーカーは、安くて丈夫なクルマという分野ではもう世界では勝てなくなっている。日本がすでに人件費が安い国ではなくなった以上、新興国と価格で真正面から闘うことはできない。そんな中、トヨタが新にラグジュアリーカーの市場で勝負をするために生み出したのがレクサスだった。ちなみにスバルも30年経って、随分とポジションが変わった。現在は北米市場におけるスバルの需要というのは、堅実でつまらないクルマの逆。4技術志向かつ高品質のプレミアムカーとして高い人気を誇っている。

■モヒート測定法、団塊ジュニア、震災

もう一度モヒートの話に戻る。この作品におけるモヒートが持つ意味は、さして大きくはないが、少なくともモヒートはこの物語の年代特定を教えてくれる。

しれっと主人公がモヒートを頼んでいる。この物語の舞台となる年代は、モヒートブームの2011年、またはそれが定着した翌2012年の可能性が高い。そのどちらかだ。いい加減だが、モヒート年代測定法である。これに従うと、多崎つくるの生年は1974年、または1975年だろう。彼が仲間からひどい仕打ちを受け人生に変化が生じた16年前の大学2年の夏休みというのが「巡礼」の先だが、それが1995年か1996年ということになる。仮に、1974年生まれで、1995年が大学2年生、そして「今」が2011年とすると、これが阪神淡路大震災、東日本大震災の2つの出来事をなぞっていると捉えることができる。小説内で震災に触れられる気配はない。むしろ不自然なまでにそれを避けて通っている。これは、そのこと自体が著者にとっての関心事だからなのではないか。初期春樹作品における重要な主題である1960年代の学生運動に、まったく関心が無いふりを装って作品が書かれていたようにである。

本作は、春樹作品で初めて、団塊ジュニア世代を主人公として描かれた長編。春樹はこれまでの大半の作品で、自分と同年代の主人公の物語を書いてきたこともあり、団塊ジュニアが主人公であることは、本作を語る上で重要な要素だ。終盤近くには、つくるが新宿駅を訪れ、オウム真理教による地下鉄サリン事件について回想する場面がある。震災の年であると同時に、1995年は地下鉄サリン事件の年でもあった。

村上春樹の前作『1Q84』は、オウム真理教事件への関心から書かれた小説だったが、今作はそれを20才で迎えた世代への関心から書かれているように感じられる。春樹自身が属する団塊世代にとっての学生運動と、団塊ジュニア世代にとってのオウム真理教事件。これらはどれも「高度資本主義社会」を受け入れきれない人々による反発(もちろん、それは敗北する)であり、どちらの世代にとっても20歳前後の時期の出来事だったのだ。

初出:河出書房新社「村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』をどう読むか」を大幅に改稿したもの。




2010年12 月25日 (土)

「ショッピングモーライゼーション」ブックガイド15 このエントリーをはてなブックマークに追加

思想地図β vol.1
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好評発売中「思想地図β」のショッピングモール特集の中で、「ショッピングモーライゼーション」という造語を用いてショッピングモールに近似する現代の都市の姿を表す論考を書き、商業、都市計画、交通の3つを横断した二〇世紀の年表をつくりました。 論考や年表をつくるのに必要とした資料、参照した本、趣味で読んだけど関係している本などもまとめておきたいと思います。
創造の狂気 ウォルト・ディズニー
ニール・ガブラー
ダイヤモンド社
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↑論考の冒頭で取り上げた、ウォルト・ディズニーの都市計画への興味、テーマパークとしての「EPCOT」ではなく、ウォルトの実際の都市計画を取り上げている。論考には写真が使えなかったけど、この写真はとても入れたかったもの。

 

Epcotcutaway

ベンヤミン・コレクション〈1〉近代の意味 (ちくま学芸文庫)
ヴァルター ベンヤミン
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↑一九世紀のパリの町並みの変化とパサージュ(アーケード)の誕生に触れたエッセイが掲載。

 

消費社会の神話と構造 普及版
ジャン ボードリヤール
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↑1970年の本。当時ベルサイユ近郊に出来たショッピングモールについて触れている。ボードリヤールは、ショッピングモールを「都市全体に広がったドラッグストア」と称した。

 

百貨店の博物史
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海野 弘
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↑一九世紀に生まれた百貨店を博物的に扱っている。

 

覇者の驕り―自動車・男たちの産業史〈上〉 (新潮文庫)

 

ディビット ハルバースタム
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覇者の驕り―自動車・男たちの産業史〈下〉 (新潮文庫)
ディビッド ハルバースタム
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↑T型フォードの大量生産“フォーディズム”から、日本の自動車産業の発展・労働闘争、生産管理の技術、自動車産業に陰りが見える70年代の米中西部の内幕など、幅広く自動車産業の歴史を追ったとにかくおもしろい本。僕は個人的にはハルバースタム風に、商業技術とショッピングモールの歴史についてドキュメントを書いてみたいと思う。

 

サバービアの憂鬱―アメリカン・ファミリーの光と影
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大場 正明
東京書籍
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↑アメリカのサバービアとその文化について書かれた抜群におもしろい本。ネットで全文読めるが、本は入手困難。文化論としてのショッピングモールは、今回あまり触れられなかったが、この本のような手つきでショッピングモールが登場する映画などに触れていく本とか誰か書かないかな。ちなみに、この本で、ショッピングセンターとショッピングモールの定義の違いが語られてますが、今回僕は採用しませんでした。

 

America's Marketplace: The History of Shopping Centers
Nancy E. Cohen
Intl Council Shopping Centers
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↑アメリカでは、ショッピングセンターの歴史の本はちゃんと刊行されています。ただ、あまり厳密な歴史を辿っているというわけではないけど。

 

ハイウェイの誘惑―ロードサイド・アメリカ (カリフォルニア・オデッセイ)
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海野 弘
グリーンアロー出版社
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↑上で取り上げた百貨店の本に引き続き、海野弘によるアメリカのハイウェイから見る郊外文化という本。インターステイトハイウェイがアメリカ文化の分岐点だったことを説いたもの。この人の仕事、目のつけどころにはとても刺激を受けます。

 

消費社会の魔術的体系 (明石ライブラリー)
ジョージ リッツア
明石書店
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↑あらゆる商業空間がショッピングモール化する現状について書いているという意味では、ドンぴしゃな一冊なんだけど、テーマ以外はつまらない本だと思いました。

 

ディズニー化する社会 (明石ライブラリー)
アラン ブライマン
明石書店
売り上げランキング: 362617

 

↑テーマパーク側からショッピングモーライゼーションを語っている一冊。

 

レクサスとオリーブの木―グローバリゼーションの正体〈上〉
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トーマス フリードマン
草思社

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レクサスとオリーブの木―グローバリゼーションの正体〈下〉
トーマス フリードマン
草思社
売り上げランキング: 60927

↑ジャーナリストが、90年代初頭に政治と経済と技術を同時に把握し、世界を見ることの重要さに気がつき、グローバリゼーションというテーマを見つけるという興味深い一冊。この本のマクドナルド理論をアレンジし「“ショッピングモールにGAPが進出している国、及びそのサプライチェーンに組み込まれた国同士は戦争をしたからない」と書きました。

 

アメリカ大都市の死と生
ジェイン ジェイコブズ
鹿島出版会
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1961年の段階で、都市のスプロール化を批判した女性ジャーナリストの手によるもの。大定番だけど、抄訳ではないものが昨年ようやく刊行された。ネットで訳者(山形浩生)による後書きが読める

 

都市のセンター計画 (1977年)
中津原 努 ビクター・グルーエン
鹿島出版会
売り上げランキング: 1473757
↑都市計画家でショッピングモールの産みの親の1人であるビクター・グルーエンが、なぜショッピングモールの建設に血道をあげたのかがわかる貴重な本。若き日の八束はじめ氏が、実はグルーエンの翻訳に関わっていたとご本人から伺った。

2009年1 月 4日 (日)

2008年に刊行された本ベスト10 このエントリーをはてなブックマークに追加

知り合い、お友だちが出した本は極力外すという方向で、2008年に刊行された本の中から、僕が読んでおもしろかった本ベスト10を紹介。この分野のブロガーは少ない気がするので、あえてカルチャー系、音楽本とか黒人関連とかが優先。他の媒体で取り上げた本も除外しました。

昭和三十年代主義―もう成長しない日本
浅羽 通明
幻冬舎
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12月に朝日新聞に寄稿した「地元志向」の原稿を書くに当たり、再度読み直し、この本のおもしろさを再確認した。手前味噌を言うと、「ケータイ小説的。」とテーマはよく似ている。参照している研究も一部かぶっている。消費社会に対する疲弊が生まれていて、それが「地元志向」や「純粋願望」みたいなものになっているという指摘。

ゼロ年代の想像力
ゼロ年代の想像力
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宇野常寛
早川書房
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やっぱりこれも「地元志向」の話として読んだ一冊。『昭和三十年代主義』と同じテーマを別の方向から語っている本として並べておきたい。個人的には、浜崎あゆみとケータイ小説が決断主義に入れられてないところに不満が残った。

世界の電波男 ― 喪男の文学史
本田 透
三才ブックス
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行数にしてみればたいした量ではないが、あだち充論の部分が秀逸。正直、僕の中にはモテ非モテ問題とか、性愛の問題みたいなものはかなり希薄なので前作の『電波男』はそれほど乗れなかったけど、「世界の~」は、掛け値無しにおもしろかった。文章のおもしろさで言うと、現存の批評家の中でもナンバーワンだと思う。

ZEEBRA自伝 HIP HOP LOVE
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ZEEBRA
ぴあ
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ケーダブ自伝の50倍濃くておもしろい。東京生まれヒップホップ育ちでも、マイケル・シェンカーとマイケル・ジャクソンが同時期に好きで、YMOの影響も受けているという80年代前半の日本のリアル。そして、星新一好きの側面などが書かれている。祖父・横井英樹に「これ読め」と城山三郎を読まされた話と、氷室京介にほめられた話がいい。

友だち地獄―「空気を読む」世代のサバイバル (ちくま新書)
土井 隆義
筑摩書房
売り上げランキング: 4245

高野悦子と南条あやという2人の少女の自殺の比較で社会の変化を示す第二章が特に見事だった。

グ、ア、ム
グ、ア、ム
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本谷有希子
新潮社
売り上げランキング: 69447

地元志向の妹と、自分探しの姉が母を連れてグアム旅行に行くお話。舞台はグアムのショッピングモール、そして、母娘の物語。短編といっていい短い小説だけど、がんがん興味のあるモチーフを突っ込まれていておもしろかった。

ブラックパンサー エモリー・ダグラスの革命アート集 (P-Vine Books) (P-Vine Books)
サム・デュラン
ブルース・インターアクションズ
売り上げランキング: 243033

「左翼思想とはグラフィック・デザインのことである」、と言いたい。大学の新左翼の立て看板、ロシア構成主義、あと都築響一の仕事で、文化大革命をグラフィックで見るという「プラネット・マオ―文化大革命のグラフィック・パワー 」という本も秀逸だった。この本は、P-Vineが出した、米の黒人過激反体制組織ブラックパンサーのアート集。ディスコイラストレーターの江守藹も、エモリー・ダグラスの影響を受けていたのか、とショックを受けた。とかいってもあまり理解されないと思うけど。

ポケットは80年代がいっぱい
香山リカ
バジリコ
売り上げランキング: 156385

枚数で言うと、一冊の分量を満たしていないくらいの本だけど、『遊』や『HEAVEN』界隈の濃密な80年代渋谷界隈な空気が描かれている。若き日の三田格も登場する。

まなざしの地獄
まなざしの地獄
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見田 宗介
河出書房新社
売り上げランキング: 1074

これは復刊もの。永山則夫に関する本を大量に読むと、多くがこれをネタ本にしているので、読まずとも半ば読んだも同然だった。ついに、今年復刊されてオリジナルに触れることができた。

カラオケ秘史―創意工夫の世界革命 (新潮新書)
烏賀陽 弘道
新潮社
売り上げランキング: 103160

タイトルはウソで、初めて書かれる「正史」。ウソがまかり通るカラオケ発明史を、詳細な取材で明らかにした一冊。カラオケボックスがその歴史のはじめからロードサイドビジネスだった話など、消費社会論としても読めた。この著者がカラオケについて本を書いているという話をどこかで目にしたのが、2年以上は前だったはず。長い時間かけてかけて書かれた一冊なんだろう。面識はないですが、裁判がんばって欲しい。

2008年10 月23日 (木)

『紫の青春~恋と喧嘩と特攻服~』感想 このエントリーをはてなブックマークに追加

紫の青春 ~恋と喧嘩と特攻服~
中村 すえこ
ミリオン出版
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美談としてフィルターがかかりまくっているケータイ小説と違って、本当に「本当にあった話」である、北関東のレディース連合の2代目総長の自伝。

ヤンキー色ガンガンの表紙やタイトルだけど、若くして登りつめ、一気に転落し、そこからはい上がり幸せをつかむというジェットコースター人生が綴られる中身は、成功体験、人生哲学本として読めるもの。サブカルチャーの棚だけではなく、恋愛・生き方エッセイの棚にも並べてもらえるといいと思う内容。

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2008年8 月21日 (木)

『東京デッドクルージング』東京論としてのノワール小説 このエントリーをはてなブックマークに追加

東京デッドクルージング このミス大賞シリーズ
深町秋生
宝島社
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マフィア、ヤクザ、腐敗した警察といった組織犯罪を描き続けるノワール小説の書き手・深町秋生の特徴は、大沢在昌や馳星周といった先行世代のクライム作家たちが舞台として新宿歌舞伎町のような都会を選ぶのと反対に、地方都市、郊外的風景を選ぶところにある。

デビュー作の『果てしなき渇き 』は、16号線沿いのコンビニ強盗から始まっていたし、青春小説の要素が入った2作目の『ヒステリック・サバイバー』は地方都市が舞台だった。『OUT』に代表される桐野夏生の小説が、ノワール系作家の作品よりもリアルに感じられるのは、取材力もあるのだが、彼女が舞台として選ぶ郊外や地方のリアリティーが関係にしているように思う。都会を戯画的に描くのではなく、郊外をリアルに描くのが桐野だとすれば、深町はその線上にいるように思う。なので、その深町の最新作のタイトルが『東京デッドクルージング』とは気にくわないなあと思っていた。

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2008年7 月10日 (木)

『<盗作>の文学史』感想 このエントリーをはてなブックマークに追加

盗作の文学史
盗作の文学史
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栗原裕一郎
新曜社
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 当方、「好きな小説家? 大藪春彦と山田風太郎っす!」と答えてはばからない人間なのだけど、この『盗作の文学史』はそんな文学音痴でも、一切斜め読みすることなく読み通した。

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2008年7 月 1日 (火)

『20世紀破天荒セレブ―ありえないほど楽しい女の人生カタログ』感想 このエントリーをはてなブックマークに追加

20世紀破天荒セレブ―ありえないほど楽しい女の人生カタログ
平山 亜佐子
国書刊行会
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20世紀に生きた20人の女性の伝記や自伝を濃縮した一冊。

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2008年5 月24日 (土)

生物と無生物と『「謎」の解像度』のあいだ このエントリーをはてなブックマークに追加

「謎」の解像度
「謎」の解像度
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円堂都司昭
光文社
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(このエントリーのタイトルはホッテントリメーカーが命名しました。)

あの有名なM君の部屋にはドアがなく、カーテンで仕切られていただけだったという。

宮崎勤は「自閉に失敗」したから事件を起こしたのだ、という「見立て」から始まり、渋谷の「広告都市」化、テーマパーク化など(北田暁大)というような概念を援用し、カラオケ、テレクラ、ウォークマン、シンセサイザーなど「メディア」の変遷を執拗に辿りながら、八〇年代以降の時代環境と綾辻行人の“館シリーズ”を関係性を論じているのが、円堂都司昭の批評家としてのデビュー作で、創元推理評論賞を受賞した「シングル・ルームとテーマパーク――綾辻行人『館』論」。

そして、その円堂の新刊『謎の解像度』は、このスタイル、つまり、新本格ミステリの作家たちの作品を通して、現代の時代環境を論じていくというフォーマットで書かれている(「シングル・ルーム~」も本書に収録されている)。

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2007年11 月28日 (水)

ケータイ小説の「リアル」とは何か? このエントリーをはてなブックマークに追加

恋空〈上〉―切ナイ恋物語

ケータイ小説についてブログで書いてから、もう5ヵ月経った。あれから、とりあえずは『恋空』と『赤い糸』を読んだ(他にも結構読んだ)ので、ちょっと考えたことを小出しにする。

とくに、最近は普段からRSSリーダーに入れているブログでケータイ小説に関するさまざまな議論、論点が出てきていて(「恋愛小説ふいんき語り」も読んだ)、うずうずしてたのでちょっとだけ参加。

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2007年9 月 5日 (水)

『メタボラ』感想 このエントリーをはてなブックマークに追加

本を読むのは遅いほうなのだけど、ほぼ24時間で読了。おもしろかった。

メタボラ
メタボラ
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桐野 夏生
朝日新聞社 (2007/05)
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記憶をなくした若者ギンジと、宮古島出身で、親に放り込まれた強制訓練施設から脱走してきたアキンツの出会いから始まる。舞台は沖縄。

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著書

about::フリーランス編集者・ライターの速水健朗のブログ。ディスコや歌謡曲などについて。

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